Musica Sacra

ムジカで演奏する曲について

ここではムジカサクラで演奏する曲を紹介します。

一口に中世、ルネサンスの音楽といっても、西暦1620年ごろまでの音楽全てが対象になりますから、概説するだけでも相当の分量になってしまいます。それに、涙の出るほど詳しい解説を書いているページがほかにもたくさんあります。そこでここでは軽く、とくにムジカサクラでよく扱っている曲が一体どんな雰囲気の曲なのか、それに、日本語の歌とは何が違うのか、そういったことについて簡単に解説することにします。

まず、宗教曲からはじめましょう。ここではもちろん宗教というのはキリスト教のことです。宗教曲は基本的に歌詞がラテン語で、しばしば聖書からの引用です。本来はキリスト教の洗礼を受けた人が、信仰心を持って祈りの歌として歌うものですが、ムジカサクラには信者はほとんどいない(おそらく一割もいない)ので、純粋に音楽的な面のみに着目して歌っていることになります。
西欧では信仰の問題とも深く絡み、宗教曲は最も重要な音楽として栄えていました。そして、信仰心を強められるようにと、清純で綺麗な曲が星の数ほど作られています。中世からルネサンスにかけては、合唱、とくに無伴奏の合唱が最も栄えた時代といえます。
とくにルネサンスの歌に関して言えば、現代的な曲のように大胆な不協和音を用いるようなことはあまりありませんので、聞いていても歌っていても気持ちの良い歌ばかりです。

さて、忘れてはならないのは、無伴奏で演奏するということです。当時も楽器は発達していましたが、特に宗教曲に関していえば、無伴奏の合唱曲が多く書かれています(オルガンつきの曲などももちろんあります)。ムジカサクラでも無伴奏で演奏しています。伴奏なしで歌えるのか、不安に思うかもしれませんが、きっちり歌えるようになるまで音とり(歌えるように音を覚えていくこと)をしていますし、奇抜な和音も少ないので思ったほど音とりは大変ではないと思います。

ここで少しだけ突っ込んだ話をします。現代にはほとんど見られないけれども当時は主流であった、ある音楽的な技法の話です。 それはポリフォニーとよばれます。
これは、女声の最高声部から男性の最低声部まで、全てのパートが同じ重みを持っているということです。誰にでも出番が回ってくる、と言い換えると判りやすいでしょうか。これは、現代の日本語の合唱曲と比べてみればよく判ります。現代の曲ではソプラノがメロディーをかなで、他の低い音を出す人(高い音を出せない人)は和音を作ったり、あるいはバスがビートを刻んだり、といったように、最高声部が主役で、他は完全に脇役に徹する、そういう曲が多いようです。これに対し、ポリフォニーでは、例えばバスから歌い始めたり、テノールが妙にかっこよかったり、アルトが超絶技巧的な旋律を奏でたり、と、色々で、決してソプラノばかりが目立つわけではありません。
ここで、バスから歌い始める、と書きましたが、ポリフォニーでは全員が同じ歌詞を同じリズムで歌うことよりも、歌いはじめをずらして歌うということがしょっちゅうあります。全パートがほとんど同じ旋律をちょっとずつずらして歌う、といったことが行われています。つまりどのパートにいても同じメロディーを歌えるわけです。パートごとにメロディーが違うこともありますが、それぞれのパートが出番となるところは必ず用意されています。また、パートごとに歌詞がちがうものまであります(ムジカサクラではそれほど多くは扱っていませんが)。
どうでしょう?面白そうだとは思いませんか?

このまま放っておくと話が止まらなくなるので宗教曲の話はとりあえず切り上げて、世俗曲の話に移りましょう。世俗曲というのは、宗教曲でない曲全ての総称です。ですから、歌詞は何でもありです。イタリア語、フランス語、英語、独逸語、スペイン語、などなど、各国の色々な言葉で歌います。もちろん発音は指導があるので大丈夫です。(実はラテン語のほうが発音が基本的にローマ字読みでよいので―あくまでも基本です、本当は各国ごとに訛りがあります―楽です。)
ではどんな内容の歌詞なのか?これもさまざまです。
例えば以前ムジカサクラで演奏した歌の歌詞を見て見ましょう。訳だけのせます。

好きだよ、ああ、君が好き。
かわいい僕の恋人よ。
キスしておくれ、
さあこっちへきてキスしてよ、アマリリス。
きれいなフィリスより、君はずっと素敵だよ
どうしようもない歌詞ですね、歌も歌詞に合わせてとても快活でかわいらしいものになっています。もうひとつ引いて見ましょう。

ほしいという言葉さえ口に出せないような
この上もなく高きものを切望したあまり、絶えた望みは
精神にひとつの苦痛を耐え忍ばせる結果をもたらし
しかもその苦悩がわかるのはただ、私だけ
愛の神はそのことを知っているのに、わかってくれようとはせず
理性はそれがわか……
あまりにも暗いので途中で止めてしまいました。訳なので歌らしくありませんが、もとのフランス語では脚韻を踏んでいますし、ちゃんと詩になっています。暗いことに変わりはありませんが、なかなかこれで聞かせるいい歌です。ところで、落ち込んだときは身体を動かすのが一番でしょう?ということで踊りの歌です。

ガリアルダを習いたい人は
私たちのところにおいでなさい、
ずっと昔から教えているのですから。
朝にも晩にも奏でずにいられない
タンタンタンタリラリラリラ
ちょっとおいでなさい、
こえを掛けたがっている方々よ
十のステップに合わせて踊りましょう。
朝にも晩にも奏でずにはいられない
タンタンタンタリラリラリラ
ガリアルダというのは踊りの一種ですが、この元の歌詞でもタンタンタンタリラリラリラのところは、Tan tan tan tarira, rira rira.となっています。このように擬音語をそのまま歌にしてしまったものはたくさんあって、いろんな鳥の鳴きまねをしてみたり、大砲の音を真似でドンパンドンパン、歌っているのかはしゃいでいるのかよく判らないような歌もあります。

世俗曲もきちんと解説するのは大変なのでこんな解説になってしまいましたが、ムジカサクラで具体的にどんな歌を歌っているのか、すこしは想像していただけましたでしょうか?

興味を持っていただけた方は、まずは一度演奏を聞きにいらしてください。→演奏会案内